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ヲタクが喋ってます。 絵も描きます。 逆裁とアジカンが好物。
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2008-01-16 [Wed]
 法介との出会いの話はこれでおしまいです。詰め込んでたらちょっと長くなっちゃった。
 ちなみに、「己れ→オレ」です。法介の一人称。

己れの主人は変わった人だ。
報復と称して己れを前の主人から奪った後、己れに住処を与えてくれた。
普通、かどうかは判らないけど、前の主人の時は呼び出されるまで己れは人の形を取ることはなかった。
依り代となる人型の型紙に呪を書かれて呼び出されるまで己れの記憶は途切れる。魂のままだと記憶を保てないからだ。
けれども今の主人は己れの普段の依り代を型紙ではなく庭に植えてある(一見では無造作に生えているようにも見える)若い橘の木にした。
用事がある時以外は己れの魂は橘にあるので、昼に近い時間に起きてくる主人やら木に止まってくる鳥やら犬の遠吠えやら、垂れ流しで見ることができるようになった。
おかげで式神のくせに主人より先に都の噂や情報を知ることができる。
(町の小鳥はおしゃべりで、結構人間側の情報を掴んでいたりするのだ。鳥も莫迦に出来ないぜ。)
ある時別の用事で呼び出された時に小鳥から聞いた噂話を話したら主人も感心して、
「君が気になることや話したいことがあったらまめに話してよ。面倒が省ける。」
と仰ってくれた。
それ以来、己れは退屈そうな主人に本当か嘘か判らない噂話を延々話掛けるようになった。
こんなにしゃべることになるなんて前の主人の時ではちっとも考えられないことで(大体おしゃべりな式神なんてもの見たことがない)、我ながら式神らしくない式神になったような気がする。

己れがここに来て以来、初めて主人の来客があった夜。御剣殿がお帰りになった後主人は己れを橘の木の前に手招いた。
「ねぇ法介、君の橘に藤の蔦が絡まっているのが見えるかい?」
「はい。最近は元気良く成長してるみたいで、宿っている時たまに体がきついです。」
「はは、成長期みたいだね。君の橘もまだ伸びそうだし、どっちが先に花をつけるかちょっと楽しみなんだよ。」
「己れの方が先に生えたんだから、己れの方が先だと思います。」
「ふふ、それはわからないよ?植物によって花の咲く時期は変わってくるんだから。君より後に生えてきて、君より先に花咲く植物かもしれない。」
「それでも己れの方が先です!」
むきになって云ってしまった。云い過ぎたか、とちょっとヒヤリとしたけど、主人はからからと笑っていた。
「ふぅ、君は面白いね。そもそもこの橘は前の帝*須磨院から頂いたものなんだよ。僕が都の*丑寅に住まうことになった時、一人で役を勤めるのも寂しいだろうって内裏の橘から枝分けしてくださったものなんだ。だから僕はこの橘が成長するのを秘かに楽しみにしていたんだ。
だけどね、ある日この橘から魂が抜けていて僕は吃驚した。魂がない依り代は成長することが出来なくて、そのまま腐っていくしかない。僕は悲しくて悔しくて、僕の橘から魂を抜き取った犯人を捜そうと思ったんだ。」
「え、植物にも魂が宿ってるんですか!?じゃあ、己れが入ったら元の橘の魂が…」
「最後まで話を聞くもんだよ法介。植物だけじゃない、この世に生きる全てのものに魂は存在している。路傍の石だって、モノによっては魂が入ってたりするもんだよ。動けるものだったら大体魂は宿っている。僕にはそれがわかるんだ。
まぁ、僕の話はここまでにしといて。僕の橘を奪った犯人は予想以上に抜けていたみたいで、わざわざ僕の家に訪ねてくれたよ。橘の魂を携えてね。」
「え。ま、まさか…」
己れは視線を橘の木に向けた。そういえばその時は気付かなかったけど、この木に初めて宿った時、ほっとしたような気がする。
「そう。君があいつの問いにしたいらえは正しかったんだよ。君は元々あいつの式神ではなく僕の橘の魂だったんだから。僕は君の答えがとてもうれしかった。記憶がなくて一時的に他人のものになっても僕の元に戻ってきてくれたんだからね。」
そう云って己れを見た主人は慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。
己れは恥ずかしくなって、つい顔をそらしてしまった。
「そ、そんな…予想外でした。」
「ふふ、ちっとも気付かないようだったからいつ打ち明けようかと思ってたんだけどね。ついでだから話しちゃおうかと思って。」
「ついで、と云うと?」
「そろそろ僕の呼び名を『主人』から変えてもらおうと思って。」
「え、ええええ!!?」
己れにとって主人は主人なんだけど、どうしろと云うんだろうこの人は!
「無理ですよ!己れら式にとって使役主はどうあっても主人です!言霊を反することは出来ませんよ!」
「いやいや、いきなり呼び捨てにしろってことじゃないから。流石にいきなりタメ口になっちゃこっちも気分がよろしくないからね。」
「そういう問題じゃありません!下手をすると式として存在も出来なくなるのに…」
言霊というのはそれくらい縛りが強い。世の理を司るものだから、立場を省みない言動をすれば、存在そのものが揺らぎ易い己れら式神はこの世に存在すら出来なくなる。
「わかってる。僕も微量ながら世の理を知るものだからね。そうじゃなくて、君のこころをもっと僕に近づけて欲しいんだ。人と橘という理としての存在はかけ離れていても、魂を僕と繋げて欲しいんだよ。家族のように。」
その言葉を聞いた時、己れを見つめる主人の目に何かがよぎったような気がした。寂寥感のような、子を想う愛おしさのような…。
己れは主人と大して長い時間を共有したわけではないからその寂しさの理由はわからなかったけど、気がついたら首を縦に振っていた。
そこから二人で妥協点を探していって、己れは主人を「イチさん」と呼ぶようになった。イチさんは「さん」が他人行儀で嫌だと駄々をこねたけども、敬意を表す言葉がなかったら己れが存在できなくなりそうだったのでそこは譲れない。

己れとしては主人の呼び名を変えるだけで精神的に疲れたのに、主人は立て続けに爆弾を落としてくれた。
曰く
「下の子が出来るとしたら弟がいい?妹がいい?僕としては妹の方を強くお勧めするけどね。」
だそうだ。どうやら己れの依り代に絡まっている藤を兄妹式にするつもりらしい。己れは投げ遣りに
「イチさんの好きなように!」
と云い逃げて橘の中に戻ってしまった。そんな己れを追う様にけらけらと笑う主人の声が聞こえた気がする。
己れの主人は本当に変な人だ。

*
須磨院→裁判長をイメージしていただけたら良いかと。
丑寅→鬼門。人ならざるものがやってくる方角が鬼門とされ、厄災がやってくるのも鬼門と考えられていた。鬼門を抑えるということは都を守るためにも重要で、ここでは陰陽師として力のある成歩堂が役についていた。

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